交通事故で健康保険を使わないと慰謝料が減る?
「相手か相手の保険会社が医療費を支払うのだから、自分は別に健康保険なんて使わなくていい」「健康保険は交通事故の怪我には使えないと聞いたことがある」
交通事故では、このように考える方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、専門家の立場からすると、健康保険を使っていただきたいのです。
ここでは、交通事故で健康保険を利用する大切さを、慰謝料や医療費、後遺障害の認定に絡めて、分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.交通事故での健康保険を使うには
まずは、健康保険を利用するための手続きを説明します。
医療費は、事故を起こして被害者の方を怪我させた加害者が負担すべきものです。
ですから、健康保険は、支払った費用を加害者または加害者の保険会社に請求することになります。
そのため、交通事故で健康保険を利用するには、被害者の方が、加入している健康保険組合などに対して、交通事故の内容・加害者やその保険会社・通院先や通院状況などを連絡しなければいけません。
そこで、被害者の方は、健康保険組合に「第三者行為による傷病届」という書類を提出する必要があります。
第三者行為による傷病届の書式は、健康保険組合に問い合わせをするか、公式サイトを確認すれば、書式を手に入れられるでしょう。
健康保険組合によっては、ほかにも、「交通事故証明書」など、交通事故に遭ったことを証明する書類も求めてくることがあります。
交通事故証明書は、自動車安全運転センターに申請すれば手に入れることができます。
健康保険を利用するのですから、保険会社ではなく、健康保険組合などに詳細をしっかりと確認してください。
さほど難しくない手続ですが、それでも面倒という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、健康保険を利用することには、これから説明するような多くのメリットがあります。
2.健康保険を利用するメリット
(1) 健康保険で事故直後の通院費用の負担を軽くできる
交通事故に遭ったら、2,3日以内、どんなに遅くとも、1週間以内には通院して医師の診断を受ける必要があります。
他の原因が疑われる余地が生じる前に、交通事故が原因で怪我をしたという証拠を作らなければ、賠償請求そのものが難しくなるからです。
加害者側の任意保険会社は、加害者側の自賠責保険会社からの支払いと合わせた保険金・賠償金をまとめて、医療費については病院に直接支払う「一括払い」というサービスをすることが一般的です。
しかし、事故直後となると、一括払いが間に合わず、いったん被害者の方が医療費の自己負担をすることもあります。
あとで賠償されるとしても、一時的に出費を強いられるわけですから、その金額は少ないほうがいいでしょう。
ですから、健康保険を利用して、医療費自体を減らす意味があるのです。
なお、一括払いは保険会社のサービスであり、公的な制度ではありません。
一括払いをするかしないか、また、一括払いをいつ打ち切るかは、保険会社の自由です。
保険会社と話がこじれ、一括払いをしてもらえない、まだ治療中なのに一括払いを打ち切られた。
そんな時に備えるためにも、早くから健康保険の利用をお願いします。
(2) 健康保険で過失相殺による医療費負担を減らす
交通事故の損害賠償金は、必ず交通事故の損害すべてについて支払われるわけではありません。
特に、被害者の方も道路を利用するうえでの注意義務に違反していること、すなわち、「過失」が認められてしまった場合は支払われる賠償金がその分減ってしまいます。
この「過失相殺」制度により、損害賠償金が損害額よりも少なくなってしまうことは珍しくないのです。
過失があるために、損害額を自分で払わなければならず、医療費が高ければ高いほど自己負担分も非常に高くなってしまいます。
ですから、自己負担分を減らすためにも、健康保険を利用することで医療費そのものを減らすことは重要なのです。
(3) 自賠責保険からの賠償金を十分手に入れられないおそれ
任意保険会社は、被害者の方からすればまだ通院が必要なのに、これ以上の治療は不要だとして、医療費の支払いを打ち切ることが珍しくありません。
その後の医療費は、いったん自己負担をしたうえで改めて賠償請求できることもありますが、まずは、自賠責保険会社に被害者請求で支払いを要求することもできます。
しかし、自賠責保険会社から「怪我」の損害について支払われる保険金は、後遺障害部分以外の「全ての損害項目を合わせて」120万円が上限です(2019年6月現在)。
そのため、健康保険を用いずに医療費を高額にしてしまうと、120万円をすべて医療費に費やしてしまい、慰謝料などほかの怪我の損害賠償金を自賠責保険会社から受け取れないおそれが生まれます。
医療費だけで120万円を超えてしまえば、超えた分の医療費は加害者か任意保険会社が支払わなければ被害者の方の負担になってしまいます。
加害者や任意保険会社が支払いに応じない場合もあるため、自賠責からの損害賠償金を十分に活用するには、健康保険を利用して医療費自体を減らす必要があるのです。
(4) 後遺障害等級認定のための資料を手に入れやすくなる
画像検査は、レントゲン程度ならともかく、CTやMRIともなると、健康保険を利用しない自由診療だと数万円は軽くかかることがあります。
むち打ちなどは、わずかな筋肉などの損傷や神経の圧迫が、後遺症を招くことがあります。
事故のあとできる限り早くに精密な画像検査をしなければ、その損傷が写りにくくなってしまいます。
費用の負担を嫌い、検査をためらうことがないようにするためにも、健康保険の利用は大事です。
3.まとめ
交通事故の被害者なのだから、医療費は全額相手が負担するだろうし、慰謝料も必ず支払われる。
そう思っていらっしゃる方が多いですが、実際はそう簡単にはいきません。
健康保険を使うことで、通院の負担を減らしましょう。
賠償金が不十分になってしまっときに備えるだけでなく、通院・治療をしっかりとすることで、後遺障害の認定などにもメリットがあります。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。関東に張り巡らした支店ネットワークと、経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。
健康保険を使って通院体制を万全にしたら、さっそく、弁護士に依頼して損害賠償請求に移りましょう。
皆様のご来訪をお待ちしております。
-
2020年6月5日交通事故 高次脳機能障害の画像検査|後遺障害等級認定されるために
-
2020年7月14日交通事故 駐車場事故が起こったときの対処法|被害者が知っておくべき知識
-
2019年11月18日交通事故 交通事故の過失割合|誰が決める?保険会社の提示額は正しいのか?