駐車場事故が起こったときの対処法|被害者が知っておくべき知識
駐車場に車を停めようとしているときに、「車の間から急に人が飛び出してきた」「バックしているときに歩行者と接触しそうになった」という経験はないでしょうか?
また、そうでなくても、車が密集して不規則な動きをとる狭い空間に不安を感じたり、車止めがなくひやっとしたという方も多いと思います。
もし駐車場で事故に遭ってしまったら、どう対応すれば良いのでしょうか。一般道での事故との違いはあるのでしょうか。
ここでは、駐車場事故が起こったときの対処法と、駐車場事故について知っておくべき知識を解説します。
このコラムの目次
1.駐車場での事故について
駐車場のうち、スーパーやコンビニ、飲食店、ショッピングセンターなどの駐車スペースは、不特定多数の人や車が自由に行き交う場所です。
このような場所は、たとえ私有地であっても、「一般交通の用に供するその他の場所」として、道路交通法上の「道路」に該当し、同法の適用があります(道路交通法第2条1項1号)。
※私人の宅地の一部を道路交通法の「道路」と認めた判例(最高裁昭和44年7月11日判決)
つまり、このような駐車場は「公道上の事故」と同じ扱いになり、道路交通法が適用になるということです。
道路交通法の適用があるということは、安全確保の義務や負傷者の救護義務、警察への報告義務が発生するほか、道路交通法上の罰則の対象になるのです。
一方、自宅の駐車場や月極め駐車場、個人所有の駐車スペースなどでは、不特定多数の人や車が出入りしない場所は、道路交通法の適用はないことになります。
交通事故を起こした者は、事故現場の駐車場が道路交通法上の道路であるか否かにかかわりなく、交通事故で生じる刑事上や民事上の責任を免れるものではありません。
すなわち、人身事故を起こした運転者には、道路交通法上の道路でない駐車場内で起きた事故であっても自動車運転過失致死傷罪などの犯罪が成立し刑事責任を追及されます(ただし、道路交通法上の道路でないので、刑事責任のうち道路交通法違反は問題となりませんし、免許がなくても無免許運転にはなりませんから、無免許による危険運転致死傷罪の刑の加重もありません)。
また、事故現場の駐車場が道路交通法上の道路でなくとも、交通事故により他人の身体や生命を傷つけたり、他人の物を壊したりした場合に、民事上の損害賠償責任も発生します。
2.駐車場事故後の対応方法(人身事故)
道路交通法では、加害車両、被害車両を問わず「交通事故」を起こした車両の運転者等に、負傷者の救護、道路上の危険防止措置、警察への報告という3つの義務を課しています(道交法72条1項)。
道路交通法では、「交通事故」とは、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」と定義されており、同法の道路上の事故に限定されていません(同法67条2項)。
したがって、駐車場で人身事故が起きた場合、不特定多数の人や車が出入りするか否かにかかわりなく、救護義務や警察への報告義務があることをしっかり認識しておきましょう。
駐車場で人身事故が起こった場合の流れは、大まかには次のようになります。
(1) 警察への連絡・救急車の手配
駐車場で人身事故を起こした運転者は、二次被害対策のために交通・車両の安全を確保した上で、負傷者の救護を行わなければなりません。
怪我人がいる場合は直ちに119番通報を行い、救急車が到着するまで可能な応急救護処置を行います。
また、事故の状況を確認し、警察へ連絡する必要があります。
警察には、事故の場所、負傷者の数や負傷の程度などを報告しましょう。
(2) 実況見分(現場検証)
警察が現場に到着すると、実況見分と呼ばれる現場検証が行われます。
実況見分では、警察が事故現場を確認し、事故当事者に聞き取り調査を行います。
実況見分の内容は、実況見分調書に記録され、加害者の刑事処分の重要な証拠となります。
それだけでなく、実況見分調書は民事責任の証拠として利用することも認められているので、加害者の損害賠償責任の有無の認定や、賠償金額を左右する過失割合の認定にとって、極めて重要な証拠ともなります。
したがって、警察官に対して、事故の状況をしっかりと伝える必要があります。
相手の言い分と違っていても、決して遠慮してはいけません。
(3) 保険会社への連絡
事故後は自分の加入している任意保険会社の事故受付窓口に電話し、事故発生を伝えましょう。
加害者であれば当然ですが、自分が被害者の場合でも、自分が人身傷害補償保険や人身傷害補償特約付きの自動車保険に加入しているなら、その補償を受けるためには、保険会社への事故報告は必要です。
(4) 病院の受診
交通事故に遭った場合、目立ったケガがなくても、事故直後に病院を受診しておくべきです。
事故直後に受診して必要な検査を受けておくことで、事故との因果関係が証明しやすくなり、スムーズに保険金の支払いが受けられるからです。
道路交通法では、物損事故であっても運転者等には警察への報告が義務付けられています。また、警察へ報告しなければ、交通事故証明書が発行されないため、その日その地点で事故があったことの証明をすることが困難になり、保険金の支払い手続がスムーズにいかない危険があります。
事故発生後の流れは人身事故の場合と変わらず、警察への連絡と事情聴取、保険会社への連絡が必要になります。
3.駐車場事故の罰則
前述のとおり、駐車場で起こった事故でも、加害者には公道で起こった事故と同様に罰則が科されます。
特に、当て逃げやひき逃げを行った場合には、厳しい罰則を科されることになります。
(1) 当て逃げ
道路交通法では、物損事故の場合でも警察への報告義務が課されます。
当て逃げはこの報告義務違反ということになり、道路交通法により罰則を受けることになります。
報告義務違反の罰則は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金となっています(道交法119条1項10号、72条1項後段)。
なお、物損事故でも、道路上の被害車両を放置し、「道路における危険を防止する等必要な措置」をとらずに逃げてしまえば、危険防止措置義務違反が問われ、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられることがあります(道交法117条の5第1号、72条1項前段)
(2) ひき逃げ
ひき逃げは、道路交通法の負傷者救護義務違反、危険防止措置義務違反、警察への報告義務違反となります。
道路交通法で定められているひき逃げの罰則は、次のとおりです。
負傷者救護義務違反及び危険措置防止義務違反 (道交法72条1項前段) |
①運転者以外の乗務員は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金(道交法117条の5第1号) ②運転者は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金(道交法117条第1項) ③事故を引き起こした運転者については、10年以下の懲役または100万円以下の罰金(道交法117条第2項) |
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警察への報告義務違反 (道交法72条1項後段) |
3月以下の懲役または5万円以下の罰金(道交法119条1項10号) |
また、ひき逃げは、刑法の特別法である自動車運転処罰法で規定されている犯罪に該当することになり、次のような刑事罰を受けることになります。
過失運転致死傷罪 |
7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金 |
---|---|
危険運転致死傷罪 |
被害者が怪我をした場合は15年以下の懲役刑
被害者が死亡した場合は1年以上の有期懲役刑(最高20年) |
4.駐車場事故の過失割合
駐車場事故でも、過失割合がどう認定されるかにより、損害賠償額が大きく変わります。
駐車場事故の基本の過失割合は以下の通りとなっており、この基本の過失割合に様々な修正要素が加えられ、過失割合が決定します。なお、以下の過失割合は、その駐車場が道路交通法上の道路か否かにかかわりません(※)。
※「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」494頁以下
交通事故被害者の方は、相手方保険会社から提示された過失割合の参考にし、納得がいかない場合は弁護士に相談してみることをお勧めします。
①駐車場内の通路での車対車の出会い頭事故
駐車場内の通路で、四輪車同士が出合い頭に衝突した事故の基本の過失割合は50:50が基本となります。
もちろん、駐車場内であっても一時停止の標示や一方通行の標示があるのに、これに違反している場合には、修正要素として考慮され、違反者の過失割合が加算されます。
②通路を進行する車と駐車区画から通路に進入しようとする車との事故
通路を進行する車をA車、駐車区画から通路に進入しようとする車をB車とした場合の基本の過失割合はA車:B車=30:70となります。
駐車区画の車は停止しており、他の車の存在を発見して危険を回避することが容易であることなどが考慮されて過失割合が重くなっています。
③通路を進行する車と通路から駐車区画に進入しようとする車との事故
通路を進行する車をA車、通路から駐車区画に進入しようとする車をB車とすると、基本の過失割合は、A車:B車=80:20となります。
駐車場は車を駐車するための施設なので、駐車スペースに進入しようとする車を優先して扱うべきだからです。
④歩行者と車の衝突事故
駐車区画内または通路において、歩行者と車が衝突した場合の基本の過失割合は、歩行者:車=10:90となります。
歩行者にも1割の過失が認められるのは、駐車するための施設である以上、自動車が常に往来しているのですから、歩行者にも慎重に注意することが求められるためです。
今日では、大型スーパーやデパート、公共施設などの駐車場では、監視カメラが設置されていることが通常なので、駐車場内での事故の過失割合を認定する証拠として利用できます。
また、大きな駐車場では、停止線や進行方向が標示されていることも珍しくなく、通路の優先関係も明示されていることが多いので、過失割合の基準への当てはめも、そう難しくはありません。
ただ、そのような設備もなく、カメラの録画もない場合は、当事者の言い分が対立し、水掛論になりやすくなります。また、事故現場に監視カメラがあったとしても、監視カメラの映像を保全していない場合には、抹消されてしまっていることが多く、利用することができません。
5.所有者・管理者の責任
最後に、駐車場内で交通事故が起こった場合、駐車場の所有者や管理者の責任を問うことができる場合があります。
それは駐車場の設備に「瑕疵」(通常、備えるべき安全性を欠くこと)があり、それが事故の原因になっているケースです。
- 地下駐車場の照明が切れて暗かったために起きた事故
- 設置された停止信号の誤動作で起きた事故
- 通路の曲がり角に設置されたミラーの角度が不適切なために起きた事故
これらの場合、所有者及び占有者(管理者)には、土地工作物責任(民法717条)に基づく損害賠償請求が可能です。
また、公共施設の駐車場の場合、その持ち主の国や地方公共団体に対し、営造物責任(国家賠償法2条)に基づく損害賠償請求が可能です。
6.交通事故のご相談は泉総合法律事務所八王子支店へ
以上、駐車場で事故に遭ってしまった場合の対処法と基礎知識について解説しました。
駐車場事故を含め、交通事故には巻き込まれたくないものですが、不運にも事故の被害者となってしまったら泉総合法律事務所にご相談ください。
交通事故の解決実績が豊富な弁護士が、納得のいく事故解決を責任もってサポートさせていただきます。
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