個人再生における小規模個人再生と給与所得者等再生の違い
個人再生手続は、住宅ローン残高の残るマイホームなどの重要な財産を処分されずに、借金などの支払負担を大きく減額できる債務整理手続です。
個人再生手続には、小規模個人再生と給与所得者等再生の二つの種類があり、どちらを選ぶかによって利用条件や債務整理の効果などが違ってきます。
このコラムでは、それぞれの違いを通して、個人再生手続から、より適切な種類を選んでいただけるように説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続の概要
最初に、個人再生手続の概要と利用するために必要な条件を説明します。
(1) 個人再生手続とは
個人再生の基本は、支払いきれない恐れのある借金を負った債務者が、借金の一部について原則3年間で返済する計画を裁判所に認めてもらうことです。
この支払計画は再生計画と呼ばれ、特別な事情が認められれば、最長5年まで延長できます。
裁判所が再生計画を認可決定した後で、債務者が、再生計画に従った返済を終えれば、残る借金も免除されます。
①小規模個人再生とは
「収入のある方」であれば、会社員だけでなく、自営業やパート、アルバイトの方でも利用できる手続が小規模個人再生です。
給与所得者等再生より、借金の減額率が高くなる可能性があり、2018年でも9割以上の方が(※)小規模個人再生を利用しています。
※司法統計による
一方で、小規模個人再生では、一定の債権者が反対すると再生計画が否決され、個人再生が失敗してしまうリスクがあります。
②給与所得者等再生とは
給与所得者等再生は、小規模個人再生よりも収入についての要件が厳しく、会社員など安定した収入がある方が利用する個人再生手続です。
その一方で、小規模個人再生のように、債権者の反対によって再生計画が否決されるようなことはありません。
(2) 個人再生手続を利用するために必要な条件
小規模個人再生と給与所得者等再生のいずれの手続を用いる場合でも、共通して必要となる条件があります。
主なものは以下の通りです。
- 借金全額を支払えない恐れがあること
- 借金総額(住宅ローン等は除く)が5,000万円以下であること
- 債務者が、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
そして、以下3つの条件については、二つの手続の間に違いがあります。
- 債務者に要求される収入の質
- 返済総額を決定するための基準
- 債権者が個人再生手続に反対できるかどうか
この3つの条件について、小規模個人再生と給与所得者等再生の違いを説明していきます。
2.債務者の収入の質についての違い
小規模個人再生と給与所得者等再生では、要求される収入について違いがあります。
(1) 収入の安定性を必要としない小規模個人再生
小規模個人再生は、再生計画に基づく返済ができれば構わないので、アルバイトやパートタイマー、年金受給者など、少額の収入しかない場合でも、その収入が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあれば、返済額次第では利用できます。
(2) 収入の安定性が必要とされる給与所得者等再生
それに対して、給与所得者等再生は、単に収入があるだけでは不十分です。
その収入が、給料のように定期的で、しかも、原則としてその金額の変動する幅が小さいと見込まれるもの(20パーセント以内の幅にあるか否かが一つの指標であると考えられているが、その前後でも認められる場合がある。)でなければなりません。
ですから、自営業の方や歩合給の方など、長いスパンで見れば十分な収入があっても、収入が不安定な方は、給与所得者等再生を利用できない恐れがあります。
3.返済総額を決定するための基準の違い
個人再生では、返済総額を決めるために最低弁済額、清算価値、可処分所得の3つの基準があり、小規模個人再生と給与所得者等再生では、次のような違いがあります。
- 小規模個人再生:最低弁済額、清算価値の2つのうちいずれか多い額
- 給与所得者等再生:最低弁済額、清算価値、2年分の可処分所得の3つのうち最も多い額
(1) 返済総額を決定する3つの基準
そこで、最低弁済額、清算価値、可処分所得の3つの基準についてそれぞれ説明します。
①最低弁済額
借金の額に応じ、法律が定めている基準額です。
借金の額 |
最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 |
全額 |
100万円~500万円未満 |
100万円 |
500万円~1,500万円未満 |
借金の1/5の額(100万円~300万円) |
1,500万円~3,000万円未満 |
300万円 |
3,000万円~5,000万円 |
借金の1/10の額(300万円~500万円) |
②清算価値
債務者が、仮に自己破産をしたとしたら、債権者に配当されると予想される債務者の財産額です。
個人再生でも、自己破産した場合の配当額以上は、債権者に弁済しなければならないということです。
③ 2年分の可処分所得
債務者の給料の額面から、税金や法令で定められたものを引いたものを可処分所得と言います。
分かりやすく言うと、給与から税金や社会保険料、年金などを差し引いた手取りの金額です。
その過去2年分が基準となります。
(2) 給与所得者等再生では返済総額が高くなる可能性
2年分の可処分所得は、給与所得者等再生でのみで基準となり、小規模個人再生では基準となりません。
2年分の可処分所得は、最低弁済額や清算価値より高額になることが多く、そのため、給与所得者等再生は、小規模個人再生より返済額が高額となり、債務整理の効果が薄れてしまうケースが多々あります。
4.債権者が個人再生手続に反対できるかどうかの違い
(1) 小規模個人再生では債権者が反対できる
小規模個人再生では、債務者が提出した再生計画について、債権者総数の過半数が反対した場合、もしくは、反対した債権者の債権総額が借金総額の半分を超えた場合、再生計画は認められなくなるとともに、手続も打ち切られてしまいます。
そのため、強硬な債権者が多い場合や、強硬な債権者から多額の借金をしている場合には、小規模個人再生が失敗してしまうリスクがあります。
(2) 給与所得者等再生では債権者は反対できない
給与所得者等再生では、債権者は裁判所に再生計画に関する意見を述べることしかできず、直接反対することが出来ません。
給与所得者等再生は、安定した収入を必要とするうえ、小規模個人再生ほど返済負担は減らせませんが、その代わり、債権者の反対を押し切って債務を整理できるという大きなメリットがあるわけです。
5.個人再生手続は弁護士事務所に相談を
債務整理には、個人再生手続の2つの種類のうちでも、基本的に利用しやすく債務整理の効果が大きい小規模個人再生を使うべきでしょう。
給与所得者等再生は、強硬な債権者がいるため、小規模個人再生に反対されてしまうリスクが大きいときに用いることが得策であるといえるでしょう。
最近では、以前よりも個人再生手続に反対する債権者が増加傾向にあります。
そのため、給与所得者等再生についても、真剣な検討が必要です。
また、給与所得者等再生は、債権者の反対に関わらず手続できる代わりに、利用条件や返済額が厳しくなっていることは、このコラムで説明したとおりです。
給与所得者等再生を利用しようにも条件が満たせない恐れがある場合、そもそも個人再生手続ではなく、自己破産手続も視野に入れて、総合的な判断をしなければなりません。
泉総合法律事務所では、個人再生手続や自己破産手続に関する豊富な経験と実績のある弁護士が多数在籍しております。ぜひお気軽にご連絡ください。
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