高次脳機能障害で職場に日常生活状況報告書を依頼するポイント
復職した方について、高次脳機能障害の症状を適切に後遺障害認定手続に反映するためには、職場の方に「日常生活状況報告書」を作成してもらう必要があります。
その際には、事前にご家庭の様子についての報告書をまとめて参考としてもらい、被害者様の職場環境や周囲からのサポートを含めた広い視点で就労中に生じた問題を文章にしてもらいましょう。
もし、職場の方にうまく説明ができない、協力を断られてしまったという場合には、早めに弁護士にご相談ください。
ここでは、高次脳機能障害で職場に日常生活状況報告書を依頼するポイントを解説します。
このコラムの目次
1.職場へ依頼する前の準備
まず、職場に依頼する前に、ご家庭での報告書を作成しておきましょう。
その際には、治療中の知能テストの内容に注意してください。
(1) 「日常生活状況報告書」の作成
職場に報告書作成を依頼する前に、説明の参考としてご家庭での様子を報告書にまとめておきましょう。
以下のことがまとめる際のポイントです。
- 被害者様の問題行動を周囲の環境や人との関わりを含めて書く
- ご家族による援助があれば内容や頻度も細かく具体的に記載する
- まとめとして、事故前と比べてどれだけ生活に問題が生じているかを書く
書式はありますが、選択式で自由欄が少ないので、別紙を添付して文章形式で報告書を別に作成してください。
(上記のポイントや別紙添付については、職場への依頼でも同様です。)
(2) 医療記録との整合性
知能テストや医師作成の診断書・報告書と、ご家族及び職場作成の報告書の内容に矛盾があれば、全体として証拠として信頼してもらえません。
知能テストは、高次脳機能障害の低下を客観的に明らかにします。
テスト結果で低下がみられる高次脳機能と日常生活状況報告書に記載された症状とのつながりが必要です。
知能テストを参考にご家庭での日常生活状況報告書を注意深く作成し、それを参考に職場での症状をまとめてもらいましょう。
そうすれば、職場での症状の報告内容が知能テストの結果から離れてしまうことは少なくなるでしょう。
なお、これは職場での報告書を作成してもらった後の話ですが、医師への診断書などの作成依頼にも注意が必要です。
医師はご家族や職場の皆様と違い、事故前の被害者様を知らず生活を共にしているわけでもないため、症状を深く理解することが困難です。
それでも、医師は専門家として診断書などに被害者様の症状を記載します。
記載内容がずれてしまわないよう、診断書などの作成を依頼するときにご家庭と職場の症状の報告書を医師に見せて丁寧な説明を心がけてください。
2.報告方法や記載内容のポイント
職場の被害者様の状況を報告するための書式はありません。
家庭での状況を報告する「日常生活状況報告」の書式を流用しつつ、別紙として文章形式での報告書を作成してもらうことになります。
そのため、報告方法や記載内容については、丁寧に説明をしなければ、職場の方が何をどう書けばよいのかわからなくなってしまいます。
以下のとおり、「事故前と比べた支障を周囲の事情も含めたエピソードとして」「問題の内容や程度を、関わってくる事実や人間関係もまとめてできる限り具体的に」記載してもらいましょう。
(1) 高次脳機能障害の報告方法
高次脳機能障害は、一般的には以下のような症状があるとされています。
- 認知障害 物忘れや判断力の低下
- 行動障害 計画性がなく段取りが悪くなる、不器用になるなど
- 人格変化 自己中心的になる、自発性がなくなるなど
もっとも、実際にはその内容はさらに複雑で細かく、すぐ疲れてしまう「易疲労性」、物音や片付いていない部屋に神経をすり減らされやすくなる「感覚過敏」、道具をうまく使えなくなるなど、被害者様により症状はより様々です。
職場の方に報告書を作成してもらうためのポイントは、そのような症状が「被害者様が働くうえで」「事故前よりも」「どのような形でどれだけの悪影響を及ぼしているか」を、周囲の環境や職場のサポートも含めて報告してもらうようお願いすることです。
(2) 症状=能力低下×被害者様の労働環境
高次脳機能障害の症状は、高次脳機能の低下だけでは語りつくせません。
被害者様の業種や年齢、地位や役割、職場の規模や自由度、人事評価システムなど様々な労働環境のなかで、能力低下が実際に生じさせている・将来生じさせるであろう「就労上の支障」こそが、高次脳機能障害の症状なのです。
低下した高次脳機能が、職場ではどのような問題を引き起こしているのかが問題です。
たとえば、以下のようなものが具体例として挙げられるでしょう。
- 気が散るのですぐそばに同僚が座って10分毎に注意している
- 業務計画立案と進捗管理はすべて上司が行い、毎日朝昼夕に5分ほど確認をしている
- すぐに疲労してしまうようになったので勤務時間を短縮した
- 取引先に分かりやすく説明することができなくなったので配置転換をした、あるいは、上司が必ず付き添うようになった
被害者様の職場での障害により引き起こされている支障は多岐にわたることでしょう。
それを、いわゆる5W1Hを念頭に置きつつ報告書にまとめてもらうようにしてください。
3.障害や制度について職場の理解を得ることも大切
職場の方々が、報告書作成や提出自体に抵抗感を持ってしまうことがあります。
事故前後で職場が変わっていない場合、職場の皆様は被害者様に同情的です。それでも、被害者様の高次脳機能障害による支障、つまり、
- 成果が事故前より落ちてしまった
- サポートに手間が掛かっている
- 周囲に迷惑をかけ、しかもその自覚がない
- 性格が自分勝手になった
…このような被害者様の非をあげつらうような記載を、ご家族に対して、しかも公的手続のために提出する書類に記入することは、ためらってしまう方がいるようです。
一方、職場が事故前後で変わった場合、事故以前の被害者様を知らない職場の皆さんは、被害者様に対してよくない感情を持っていることもあります。
いずれにせよ、被害者様の現状は交通事故による高次脳機能障害が原因のものであり、被害者様個人の人間性とは切り離して考えること、そして、損害賠償請求のためには是非とも詳細な報告書が必要だということを丁寧に説明するしかありません。
障害の内容や損害賠償制度、後遺障害等級認定手続については、弁護士の助言を受けたほうが良いでしょう。
専門家の観点から、被害者様の個別の事情に応じた障害の特性・損害賠償請求の必要性や報告書の重要性を分かりやすくアドバイスすることができます。
4.まとめ
高次脳機能障害の症状は、専門的な検査で客観的に数字や画像で目に見える形で明らかにすることはできません。
ご家族や職場の皆様など被害者様の周囲の方々の事細かでポイントを押さえた報告書によってはじめて症状を審査機関に伝えることができます。
職場の方に協力を依頼することに抵抗を覚えるかもしれませんが、職場での支障は高次脳機能障害の症状がどれだけ重いのかに直結する重要な認定要素です。
上手く説明できる自信がない、報告書を作成してもらったが不十分だった。
その他、何か問題がございましたらすぐさま弁護士にご相談ください。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定申請は弁護士に依頼して資料収集の助言を受けたほうがよいものですし、その後の示談交渉でも弁護士に依頼することで損害賠償金の相場が上がり賠償金増額が見込めます。
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