むち打ちは後遺障害として認定されにくいって本当?
交通事故でむち打ちになった後、治療で完治すれば良いのですが、残念ながらなかなか完治せず後遺障害として残ってしまう方もいます。
症状が残ってしまった場合は、交通事故の慰謝料などとは別に補償が受けられるため、今後の生活のためにも必ず手続きを行っておくべきです。
そこで今回は、むち打ちで後遺障害が残ってしまった場合に受け取れる補償、補償を受け取るための手続き、後遺障害等級認定で獲得できる等級、後遺障害として認定してもらうためのポイントをお伝えします。
このコラムの目次
1.むち打ちの後遺障害が残った場合の補償
交通事故で後遺症が残ってしまうと、事故前と全く同じ生活を取り戻すことは難しくなってしまいます。
身体の痛みや痺れ、その他の症状などにより、事故前と同レベルの生活や労働ができなくなることがあるためです。
この場合、被害者保護の観点から、事故に対する補償とは別に後遺症が残ってしまったことに対する補償を受け取れるような仕組みが構築されています。
つまり、交通事故で後遺症が残った場合には、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」が受け取れるのです。
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛に対する賠償金です。例えば、12級であれば290万円程度、14級であれば110万円程度の後遺障害慰謝料が補償されます。
他方、逸失利益は、後遺障害がなければ受け取れるはずだった将来の収入(後遺障害により労働能力の低下が認められるため)を補償するものです。
例えば、12級であれば喪失率14%、喪失期間10年程度の逸失利益、14級であれば喪失率5%、喪失期間5年程度の逸失利益が補償されます。
もっとも、後遺症が残ればストレートに慰謝料や逸失利益を請求できるわけではありません。
実務上は、後遺障害等級認定において申請を行い、等級を獲得する必要があります。
金額で言えば、後遺障害が認定されるか否かによって、1.5倍から2倍、場合によっては2倍以上の補償の差額が出ますので、後遺障害が認定されるか否かは極めて重要です。
2.むち打ちの後遺障害認定
(1) 後遺障害認定の等級獲得が必要
後遺障害等級認定とは、交通事故が原因の怪我で後遺症が残ってしまったケースで、労働能力の喪失があり、かつ後遺障害認定等級上の症状に当てはまる場合に、後遺障害に関する補償を行おうとする制度です。自動車損害賠償補償法施行令によって定められています。
等級は14等級に分けられており、申請していずれかを獲得することによって初めて後遺障害に関する補償を受け取ることができます。
後遺障害に関する補償に関しては、等級ごとにその金額が定まっているのが特徴です。
申請は、症状固定後に後遺障害診断書を医師に作成してもらい、これを自賠責保険に提出することで可能となります。
申請方法としては、任意保険会社に申請をお任せする「事前認定」と、ご自身で手続きを行う「被害者請求」の2パターンがあります。
このように、むち打ちで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害として認定してもらうことで、補償を受け取ることが可能となるのです。
(2) むち打ちの後遺障害の実情
しかし、むち打ちはなかなか後遺障害として認められにくい症状の1つといえます。
というのも、むち打ちの症状に関しては自覚症状のみで、レントゲンなどの検査画像から客観的に原因を確認できないことも多いためです。
これ以外でも、「天気の悪い日だけ症状が悪化する」など、症状が変化する場合、症状に一貫性がないとして「非該当」となってしまうこともあるのです。
もっとも、「むち打ちだから後遺障害が認められない」というわけではありません。
申請方法としては2パターンあるとお伝えしましたが、加害者側の任意保険会社に任せてしまう事前認定よりも、自分で全ての資料を確認して申請する被害者請求の方が納得した形で申請手続きが行えるという利点があります。
後遺障害認定に強い弁護士とともに一緒に準備すれば、希望等級獲得の可能性も高まるといえるでしょう。
[参考記事]
後遺障害等級認定における2種類の申請方法(被害者請求・事前認定)
(3) むち打ちの等級
むち打ちは、後遺障害認定では14級9号か12等13号に該当する可能性があります。
むち打ち症とは、交通事故の大きな衝撃で首が大きくしなることにより、首回りの筋肉や神経を痛めてしまうことにより起きる症状と考えられています。
具体的には、頸部の痛み・しびれだけでなく、肩や腕、手などの痛み・しびれ・違和感、頭痛、吐き気、めまいなどの症状も引き起こします。
14級では、むち打ちに関して「局部に神経症状が残ったとき」に該当するとしています。
14級はレントゲンなどの画像所見では異常所見は確認できないものの、医学的には説明可能であり、症状の一貫性がある場合に認められるとしています。
[参考記事]
「むち打ち」で後遺障害14級が認定された場合の慰謝料と逸失利益
これより重い等級としては、12級があります。12級では、「局部に頑固な神経症状が残ったとき」に該当する必要があります。
14級とは異なり、レントゲンなどの画像所見や神経学的検査から異常が確認でき、これに対応する症状が認められる場合に認定されます。
むち打ちではほとんどのケースで14級が認定されますが、重い症状の場合で異常所見が確認できる場合は12級が認定されます。
考慮事項としては、これ以外にも、事故や症状との因果関係が問題となります。事故以前から罹患していた症状などがあれば、事故との因果関係が否定されるケースもあります。
認定が難しいケースもあるため、専門家である弁護士と一緒に手続きを進めていくことをおすすめします。
3.むち打ちの後遺障害を認めてもらうためのポイント
最後に、むち打ちで後遺障害を認めてもらうために気をつけるべきポイントをお伝えします。
(1) 治療・通院で気をつけること
まず、治療・通院段階で被害者の方に気をつけてほしいことがあります。具体的には、以下の通りです。
- 必要な検査を受ける
- 医師に正確に症状を伝える
- 通院頻度は3日に1回が目安
治療時は、必要な検査を受けるようにしましょう。
後遺障害認定の申請をする際に、MRIの検査を受けていないなど、検査を受けていないことで申請手続きが難しくなることがあります。
後遺障害認定を受ける可能性も視野に入れて、初期の段階で必要な画像検査、神経学的検査を受けるようにしておきましょう。
また、医師に正確に症状を伝えることも大切です。
少しの違和感の場合は「言わなくても大丈夫」と考えてしまいがちですが、後に症状がひどくなるケースもあります。
初期の段階で医師に伝えていなかったことからカルテに記載がなく、症状に一貫性がないと判断されてしまう可能性も否定できません。
少しの違和感・痛みであったとしても、医師に伝えカルテに書いてもらいましょう。
最後に、通院頻度が重要です。忙しさから通院を怠ってしまう方がいますが、通院頻度が少ないと後遺障害認定で非該当という結果になりがちです。
月10回程度、週に2、3回程度の通院を続けることで、重度であると説明しやすくなります。なお、整形外科の通院と並行して接骨院,整骨院へ通院される方もいると思われますが、接骨院・整骨院はあくまでも補助的な位置づけとされています。整形外科への通院をメインにすべきです。
面倒かもしれませんが、しっかりと通院して治療を続けるようにしましょう。
[参考記事]
交通事故のむち打ちで賠償金を手に入れるために|初診での注意事項
(2) 後遺障害認定申請時に気をつけること
- 被害者請求で申請を行う
- 後遺障害診断書の中身をチェック
- 検査結果を資料として提示する
まず、等級獲得を確実にしたい場合は、被害者請求で申請を行いましょう。
事前認定は、任意保険会社が手続きを代行してくれるため非常に楽ですが、獲得が難しい等級の場合に別途資料を揃えて尽力することまではしてくれません。
むち打ちの場合は、認定が難しいことが多いため、非該当を避けるためにも被害者請求を選び、専門家である弁護士の協力の元手続きを進める方がメリットも多いといえます。
また、医師に書いてもらう「後遺障害診断書」は必ず内容をチェックしましょう。
後遺障害申請手続きに慣れていない医師もいるため、必要な内容を記載していないことがあるからです。
必要であれば、弁護士にチェックしてもらい、等級獲得のために適切な内容かどうかを判断してもらいましょう。
[参考記事]
認定が受けられる後遺障害診断書のポイント
最後に、検査結果は必ず資料として添付しましょう。
審査は完全なる書類審査です。必要な検査結果が添付されていないとそれだけで非該当となる可能性があります。
[参考記事]
後遺障害が認定されないのはなぜ?非該当の場合の対処法
4.後遺障害等級認定の申請は、弁護士にお任せ
後遺障害等級認定で等級を獲得すれば、これからの生活に対する補償を受け取ることができます。むち打ちで後遺障害が残ってしまった方は、症状固定時から申請準備を始めるようにしましょう。
被害者請求はしっかりと準備を行えるという点では被害者にとって利点が多い方法です。
しかし、手続きに専門知識が必要となるため、専門家のサポートがある方が確実です。
泉総合法律事務所は、交通事故事件を数多く取り扱い、後遺障害等級認定でも希望等級獲得の実績を多数残しています。後遺障害認定の申請の際は、ぜひご相談ください。
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